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AI時代に「ちゃんと考えられる」人を、どう育てるか

こんな違和感はありませんか
- AIを使った提案に対して、「なぜそれを選んだのか」を本人に聞いても答えが返ってこない
- 選抜研修に送り出したメンバーが、現場に戻ると結局「言われたことをやる」動き方に戻ってしまう
- AIを駆使してプランまで立てても、周囲を巻き込んだ実行力に乏しい
AIが浸透するほど、問われる場所は変わる
AIが情報収集や分析、たたき台づくりを高速にこなすようになるほど、組織の中でボトルネックになる場所は変わっていきます。情報を集める力ではなく、集まった情報から「本当に解くべき問いは何か」を見極める力。情報が完全に揃わない中でも「選び切る」力。そして、その判断を一人で終わらせず、周囲を動かして実行に変える力。この3つが、これから先の組織の実行力を分けていきます。
問われているのは、AIツールをどれだけ使いこなせるかではありません。問いを立て、選び切り、周囲を動かす——この3つの力を、日々の仕事の中でどう意識的に鍛えていくかです。
AI時代に問われる、3つの力
AI時代に必要な力として、私たちは以下の3つが重要であると考えています。
①課題設定力(考え抜く力)
表層の症状に対処する力ではなく、全体像と構造から「本当に解くべき問い」を自ら見極める思考力。
②意思決定力
不確実で情報が不完全な状況でも、選択肢を広げ、バイアスを排して「選び切る」力。
③巻き込む力
一人の判断を、周囲の実行に変える力。組織の中の力学を理解し、一人ひとりの違いを踏まえて、伝わる形で届ける力。
この3つは独立したスキルではなく、「問いを研ぎ、選び切り、動かす」という一連の思考と行動の連続です。
人間とAIを分ける、動機・目標・信念
AIは、大量のパターンから、それらしい答えを高速に出すことを得意とします。しかし、AIは無数の分解パターンや選択肢を出力できても、「これを達成したい」という欲求そのものを自分の内側から持っているわけではありませんし、「これは自分の価値観に合っている」と判断するための信念のフィルターも、自分のものとして持っていません。行動の根底に、自分自身の動機・目標・信念があるかどうか——これが、人間とAIを分ける軸です。「考え抜く力」、「意思決定力」、「巻き込む力」はいずれも、分析や評論ではなく物事を実際に前進させるために必要な力であり、したがって自分自身の動機・目標・信念の影響を大きく受けます。
方向性の手前にある、自己認識
同時に、自身の動機・目標・信念は、放っておいて自然に確立されるものではありません。組織心理学者ターシャ・ユーリックの研究によれば、自己認識には2つの側面があります。自分の価値観やスタンス、他者への影響を自分自身でどれだけ理解しているかという内面的自己認識と、他者から見た自分をどれだけ理解しているかという外面的自己認識です。多くの人が「自分は十分に自己認識できている」と考えている一方で、実際にその基準を満たしている人は全体の1〜2割程度にとどまるといいます。
自分の強み・弱みだけでなく、日々の判断や行動のクセに気づけていなければ、その背後にある自分の動機や信念の輪郭も自覚化できません。この自己認識が、3つの力すべての手前にある前提条件です。
ここから先はAI時代に問われる3つの力について具体的に1つずつ見ていきたいと思います。
①課題設定力 —問いそのものを設計する
ここでいう「考え抜く力」とは、反射的に答えを出すことではなく、解くべき問いそのものを設計する力です。これは次のような思考の連続で育てられます。
01 全体像を捉える
個別の出来事ではなく、システム全体の構造から状況を見る。同じ状況でも、個人レベル・集団レベル・システム全体レベルなど、どの切り口で見るかによって見えてくる問いは変わる
例:営業担当Aの消極性を、本人の資質の問題として片付けず、評価制度やチームの目標設定、上司との関係まで含めて見てみる
02 構造を分解する
複雑な事象を、構成要素の相互作用として分解し、何が何を引き起こしているのかを明らかにする
例:「消極的な言動」の裏にある評価基準、業務フロー、他メンバーとの関係を要素ごとに分け、何が何に影響しているかを整理する
03 思考の歪みを排す
自分自身や組織に染み付いた固定観念やバイアスを外し、前提そのものを疑う
例:「経験が浅いから仕方ない」という思い込みをいったん外し、本当にそれだけが原因かを疑ってみる
04 解くべき問いを定義する
ここまでの過程を経て、本当に解くべき問いを自ら定義する
例:「なぜ営業担当Aはいつまで経っても消極的なのか」ではなく、「どの制度や作業工程がAの積極性を奪ってしまっているのか」という問いに立て直す
状況に応じて「どのレベルで、どの切り口から見るべきか」を選ぶのは、常に人間の側です。目の前に出てきた課題に反射的に飛びつくのではなく、その課題を生んでいる構造まで立ち返る。これが、考え抜く力の中身です。
②意思決定力 —自分の所掌で、選び切る
適切な課題設定によって「解くべき問い」が定まった先には、「様々な施策案の中からどれを選ぶのか」という意思決定力が必要になります。良い意思決定には、踏むべき基本的な思考のステップが存在します。
選択肢を広げる
二択で決めず、第三の道を探す
例:「評価制度を変える」か「Aを異動させる」かの二択で終わらせず、業務プロセスの一部だけを見直すという第三の道も検討する
前提を疑う
都合の良い仮定を検証する
例:「評価制度さえ変えれば全員のモチベーションが上がる」という前提を、実際にデータで確かめてみる
決める前に距離を取る
短期の感情から離れて見る
例:Aへの申し訳なさや早く解決したいという焦りから一旦離れて、チーム全体への影響を俯瞰する
失敗に備える
うまくいかない前提で設計する
例:制度変更が全く効果を生み出さないとしたら何が原因となるか、未来の視点からあらかじめ反省点を洗い出す
さらにもう一つ重要なのが、情報が不十分な状況でも決め切るための軸です。何を優先し、何を優先しないかという判断は、機能や手段(How・What)を並べるだけでは決まりません。自分やチームが、なぜそれをするのか(Why)という目的に立ち返って初めて、材料が揃わない中でも納得感ある決断を下すことができます。この目的意識は、業務上の必要性によってのみ形成されるものではなく、当事者自らの価値観や仕事の意味づけと接続されてこそ、力を発揮するものです。したがって役職や立場に関係なく、自らの所掌の範囲で「自分なりの意思決定」を下せるかどうかが、分かれ目となります。
③巻き込む力 —一人の判断を、周囲の実行に変える
一人で考え抜き、決め切れる力があっても、それを周囲の実行に変えられなければ組織としての実行力にはつながりません。実際に動くのは、多くの場合、自分以外の誰かです。ここで必要になるのが、周囲を巻き込む力です。
力学を読む
組織やチームの中で、誰がどんな力を持ち、どう作用しているかを理解する
例:評価制度の変更には人事の承認が要る。誰がキーパーソンで、どんな懸念を持っていそうかを見極める
一人ひとりの違いを活かす
スキル、価値観、スタンスの違いを理解し、それぞれに合った関わり方をする
例:Aには具体的な行動目標を、上司には数字にもとづく説明を、というように相手によって伝え方を変える
伝わる形で届ける
文脈と相手に応じて、論理と感情の両方に働きかける
例:「制度を変えるべきだ」という主張だけでなく、「このままでは離職リスクが高まる」など、相手が自分ごととして納得できる形で伝える
AIは、もっともらしい論理構成で文章や資料を用意することはできます。しかし、グループ内の生々しい力学の中で実際に人を動かし、信頼を積み重ね、周囲を巻き込んでいく最後のステップは、引き続き私たち人間に委ねられます。それは、関係性の中に身を置き、その関係の結果を自分自身で引き受ける当事者にしかできないことです。
3つの力は、連続している
課題設定力・意思決定力・巻き込む力は、「問いを研ぎ、選び切り、動かす」という一続きの思考と行動のプロセスです。Managing Complexityでは、Minerva Projectと共同開発した「18の思考習慣」を通じて、この一連のプロセスを体系的に育てます。自己を観察し、強みや弱み、判断のクセに気づく自己認識を土台に、システム思考や認知バイアスへの対処で問いの解像度を上げ、パーパス主導の意思決定でその問いに答えを出し、対人知性やコミュニケーションでそれを周囲の実行に変えていく——これらは分断されたスキルではなく、自己認識を起点とした一つの思考と行動の流れとして設計されています。
結論:「ちゃんと考え、ちゃんと動ける」集団をつくる
AIが普及し、モデルやツールがコモディティ化するほど、それらを使ってどう問いを立て、何を選び、誰とどう進めるかという文脈依存の適応的なリーダーシップこそが、人材及び組織の希少な差別化要因として際立っていきます。そのリーダーシップの土台にあるのは、本記事で示したような思考と行動のOSです。
AIによる情報の処理がどれだけ発達しても、その処理のどれを信じ、どこで止め、何のために使うかを決め、そして周囲を動かすのは、常に人間の側です。それぞれの所掌の範囲で自分なりの意思決定を下し、チームの実行に変えられる人財を、どれだけ組織の中に育み続けることができるか。
Managing Complexityが育てようとしているのは、まさにこの、"ちゃんと考え、ちゃんと動ける"人の集団です。
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