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人的資本経営は、なぜ"空洞化"するのか

人的資本経営は、取り組むこと自体が目的になった瞬間に空洞化しはじめる。私たちはそう見ています。本稿では、その入口を3つの場面から整理します。
こんな違和感はありませんか
- 研修は予算がついたから実施した。ただ、経営に「何のための投資か」と問われると、答えに詰まる
- スキルの棚卸しと可視化は進んだが、その結果を次に何へ使うのかが決まらない
- 人事が「重要です」と提案しても、「なぜ今のやり方を変えるのか」に答えきれず、稟議の途中で止まる
人的資本の情報開示が求められるようになり、「人的資本経営」は経営会議の共通語になりました。人材への投資が大切だという認識も、広く共有されています。それでも上のような声が聞こえてくるのは、なぜでしょうか。
私たちは、この手応えのなさを、取り組みの量や熱意の問題ではなく、議論の「始め方」の問題だと考えています。
経営から財務まで、ストーリーは一本につながっているか
人的資本経営で大切なのは、次の流れが一本の鎖としてつながっていることです。
上流:経営の言葉で語る領域
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多くの議論が、ここから始まりやすい
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下流:成果として確認する領域
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図:経営戦略から財務成果までの鎖(7段階)
研修や制度は、この鎖の5番目に位置します。ところが実際には、5番目から議論を始めてしまうケースが少なくありません。
数字にも、その傾向は表れています。PwCコンサルティングのセミナーレポート(2025年5月)では、量と質の両面で人材ポートフォリオを構築できている企業は6%にとどまるとされています。
また、デロイト トーマツの「有価証券報告書における開示実態調査2025」では、人的資本投資の成果(アウトカム)を定義している企業は18%、一部を定義している企業は29%でした。
私たちはこの結果を、「人材投資が足りない」というより、「何のための投資かを、経営の言葉で語れる状態になっていない」姿として読んでいます。
3つの違和感は、鎖のどこで切れているか
以下は統計ではなく、私たちが企業の現場でよく耳にする話です。思い当たることがあるかどうか、自社の場面と見比べてみてください。
① 研修が「予算があるから」「人的資本経営と言われるから」で選ばれる
選定の理由が、事業の課題ではなく、予算や流行になっている。研修自体の質が高くても、経営の問いにつながらないまま終わります。
② スキルの棚卸し・可視化から入り、「何のために」が飛ばされる
可視化は大切な作業ですが、「どの経営課題のためのスキルか」が先にないと、データは集まっても、次の一手が決まりません。
③ HR担当が「重要」と推しても、「なぜ既存のやり方を変えるのか」に答えられず、稟議で立ち消える
提案自体は正しくても、「なぜいま変えるのか」を支える経営上の根拠が薄いと、現場の課長・部長を動かせません。
この3つには共通点があります。どれも、前節の鎖の「人材ポートフォリオ」から「採用・育成・配置・評価」のあたりから議論が始まっていることです。
私たちの見方:打ち手から始めると、鎖は途切れる
私たちは、研修・制度といった「打ち手」から議論を始めると、鎖の上流(経営戦略・必要な組織能力)と下流(業務成果・財務成果)をつなぐ説明が空白になりやすいと考えています。打ち手が悪いのではありません。打ち手を選ぶ理由が、上流から追えなくなるのです。
だとすれば、起点を逆にすることが考えられます。
- 事業として、いちばん解いておきたい経営課題は何か
- その課題を解くには、どんな組織能力が足りないのか
- その能力を支える、どんな人材の構成が必要か
こうした問いに答えてから、初めて研修や制度を選ぶ。順番を変えるだけで、同じ投資でも経営とのつながりが見えやすくなるというのが、私たちの見方です。
打ち手から(現場でよく見られる順序)
1
研修・制度を先に選ぶ
2
理由を後から探す
3
経営への説明が弱くなる
経営課題から(私たちが提案する順序)
1
経営課題を先に定める
2
必要な組織能力を特定する
3
人材の構成を描く
4
研修・制度を選ぶ
図:議論の起点を変える。上段は現場でよく見られる順序、下段は私たちが提案する順序です。
ここで、最初の一問を置いておきます。
今期の人材投資は、どの経営課題を解くためのものですか。それは、何を見れば「効いた」と言えますか。
この問いに一文で答えられるところから、鎖はつながり始めます。次回は、この問いの前に立ちはだかる、日本企業に共通する4つの経営課題を整理します。
次回コラム:カイゼンの限界、ブレーキ人材、世界基準との乖離 ― 4つの経営課題を整理する
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出典
- PwCコンサルティング「真の人的資本経営に向けた人材ポートフォリオ・マネジメント」セミナーレポート(2025年5月)
- デロイト トーマツ「有価証券報告書における開示実態調査2025」
- 内閣官房・金融庁・経産省「人的資本可視化指針」改訂(2025年12月)
※「現場でよく聞く話」は私たちの現場での見聞きであり、統計ではありません。
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