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AI時代の人材育成は、どこに投資すべきか ― 構想と実行という両端

AIが情報の整理を担うほど、人への投資は「構想」と「実行」の両端に集中する。本稿では、その見方と、両端の力を「問いを立てる・決め切る・巻き込む」の3つで整理します。
こんな迷いはありませんか
- AIの導入が進む中で、人への育成投資をどこに寄せればよいか、優先順位が見えない
- 知識系の研修を増やしても、現場での判断や行動の質が変わった実感が薄い
- AIに任せる範囲と、人が担う範囲の線引きが、組織の中でそろっていない
これらは統計ではなく、私たちが企業の現場でよく耳にする話です。前回は、日本企業に共通する4つの経営課題を整理しました。本稿では、そこにAIという変数が加わったとき、育成の投資先をどう考えるかを見ていきます。
AIが真ん中を担うとき、人の仕事は「両端」に寄る
仕事の流れを、上流の「構想」から下流の「実行」までのバリューチェーンとして見てみます。調査・整理・分析・案出しといった真ん中の工程は、AIが最も速く代替しやすい領域です。では、人に残るのはどこか。

図:AI時代の人への投資(スマイルカーブ)
真ん中がAIに移るほど、人の仕事は両端に集中していく。これが私たちの見立てです。上流にあたる「構想」では、問いを立て、仮説に賭ける。下流にあたる「実行」では、組織と人を動かし、やり切る。どちらも、答えが一つに定まらない不確実な状況で、当事者が引き受ける判断を伴います。
この見方は、山口周氏が「知的生産のスマイルカーブ」として語る、両端に価値が移るという指摘と重なります1,2。そのうえで、両端の中身をどう捉えるかは、私たち自身の仮説です。外部の調査も、これと矛盾しない傾向を示しています。世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」では、雇用主が重視するスキルの上位に、分析的思考、レジリエンス・柔軟性・敏捷性、リーダーシップと社会的影響力が並びます。また、LinkedInの「Skills on the Rise 2025」(米国)では、AIリテラシーとともに、対立の調整や適応力が上位に挙がっています。いずれも、私たちの見方を裏付けるものではなく、傍証として参照しています。
4つの経営課題が、人に求めていること
前回整理した4つの経営課題を、「経営に求められる方向」として言い直すと、次のようになります。
| 経営課題 | 求められる方向 |
|---|---|
| ① カイゼンの限界 | 既存事業の精緻化から、新しい事業のゼロからの構想へ |
| ② ブレーキ人材(文化・評価制度) | 失敗しない経営から、仕掛ける経営へ |
| ③ グローバル基準からの乖離 | 国内最適から、世界基準での組み直しへ |
| ④ 正解なき時代 | 正解を追うことから、問いを立てて進むことへ |
4つの方向に共通しているのは、誰かが決めた正解を待つのではなく、自分で問い、考え、周囲を巻き込み、学びながら変化を仕掛けていく姿勢です。組織のリーダーたちが「自律的」にそう動けること。それがいま求められている、と見ています。
「自律的に動ける人材」は、何ができる人か
私たちは、自律的に動ける人材の姿を、次の8つの力で描いています。そして、この8つを「問いを立てる」「決め切る」「巻き込む」の3つに整理しています。
問いを立てる
01複雑な状況を構造的に捉える
02自分自身を疑える
05問題そのものを問い直せる
決め切る
06選択肢をつくれる
07不確実な中で決断できる
08結果から学び、自分を更新できる
巻き込む
03異なる人を理解できる
04周囲を巻き込める
図:8つの力と、3つの力への整理(3つへの対応づけは、私たちの整理です)
「自分自身を疑える」を「問いを立てる」に入れているのは、自分の前提を疑えるかどうかが、問いの質を左右すると考えているからです。どの力も、知っているだけでは使えません。実際の状況の中で、使ってはじめて身につく力だと捉えています。
投資先を、「知識の獲得」から「実践の場」へ
AI時代の人への投資は、どこに向けるべきでしょうか。私たちは、次の3点から見直すことを提案しています。
- 学ぶ内容:知識の量ではなく、不確実な状況での判断と行動の練習になっているか
- 学ぶ場:講義を聞く場ではなく、実際の課題を扱う実践の場になっているか
- 学ぶ相手:同じ立場の人だけでなく、異なる立場の人と一緒に学んでいるか
知識は、独学とAIで十分に補えるようになりました。一方で、問いを立てることや決め切ること、人を巻き込むことは、知識として読むだけでは身につきにくい力です。これらは実践の場でしか育たない、というのが私たちの実感です。
また、こうした力は、一人では、自社の中だけでは、練習しにくいものでもあります。自分の見方のクセは、異なる見方に触れてはじめて気づけるからです。問われるのは知識の獲得量ではなく、不確実性への向き合い方です。
結論:両端の力を、どこで鍛えるか
AIが真ん中を担うほど、人の仕事は「構想」と「実行」の両端に集まります。そして、その両端の力は、問いを立てる、決め切る、巻き込む、という3つの力として整理できます。前回見た4つの経営課題への答えも、この3つの力に行き着くのではないでしょうか。
育成への投資を考えるときは、知識をどれだけ増やすかではなく、不確実な状況で判断し、人を動かす練習の場をどれだけ用意できているかを、まず見直してみてはいかがでしょうか。
次回は、こうした自律型の人材を育てる前に、組織の側で整えておきたい4つの準備を取り上げます。
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脚注
- 山口周氏は、X(旧Twitter)の投稿で、知的生産では両端に価値が移り、真ん中は稼ぎにくくなるという見方を「知的生産のスマイルカーブ」として述べている(投稿)。
- Biz/Zine「山口周が語る、AI時代のリーダーと事業開発の条件──アジェンダ設定力とスマイルカーブの両端へのシフト」(Biz/Zine編集部・栗原茂、シリーズ「注目の経営書の著者と語る」)。
出典
- 世界経済フォーラム「Future of Jobs Report 2025」
- LinkedIn「Skills on the Rise 2025」(米国)
※「こんな迷いはありませんか」は私たちの現場での見聞きであり、統計ではありません。※スマイルカーブの見方は、山口周氏の指摘を踏まえた私たち自身の仮説であり、上記の調査は傍証として参照しています。
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